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自動車産業の明日を占う! ロシアで売れるクルマとは? 新興市場BRICsを行く[1]

自動車産業の明日を占う! ロシアで売れるクルマとは? 新興市場BRICsを行く[1]
nikkei TRENDYnet7月29日(木) 11時19分配信 / 経済 - 産業

経済不況以降、なかなか振るわない自動車産業。その明日を知るきっかけにと、清水和夫氏がBRICsで行われる自動車ショーを巡る旅を始めた。その最初に訪れたのが、2008年夏のロシアでのショーだった。
 新興国の自動車市場は必ず急成長する。BRICsを自分の目で見ることで、「自動車産業の明日」を知るきっかけにできるのではないかと思い、BRICs自動車ショー巡りの旅を始めた。最初に訪れたのは2008年夏のロシアだった。

 リーマンショックが起きた2008年秋の直前、私はかねてから希望していたロシアを訪れることができた。きっかけはモスクワではまだ珍しい国際自動車ショーが開催されることを知ったからだ。

 経済が急成長する新興4カ国をBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)と呼ぶが、ブラジルを除くと、インドも中国もロシアも日本からは比較的近い国であるにもかかわらず、実態はあまり知られていない。新興国では、先進国がそうであったように自動車市場が必ず大きく立ち上がる。GDP(国内総生産)と自動車市場は一心同体のように拡大するものだ。

 つまり、BRICsをじかに自分の目で見ることで、「自動車産業の明日」を考えるきっかけになるのではないかと思い、「BRICs自動車ショー巡り」の旅を始めたのだ。その最初に訪れたのが、2008年夏のモスクワ自動車ショー(モスクワ国際モーターショー〈Moscow International Automobile Salon 2008〉:2008年8月26日・27日プレスデー、28日トレードデー、8月29日~9月7日一般公開)。

 フライトの関係で成田からパリ経由でロシアに乗りこんだ。エールフランスのボーイング777は最終目的地のモスクワ上空を通り越し一度パリに降り、フライトを乗り継いで東に戻るかたちでモスクワに着く。直行便なら9時間だが、このときは16時間もかかった。

 近くて遠い国、ロシアはどんな国なのだろうか。社会主義が崩壊し、資本主義となってから20年の年月が経った。機中ではいろいろと考えを巡らせたが、頭に浮かぶのはせいぜい昔見たスパイものの映画ばかりで、そうした映画の中でロシアは常に悪役を演じてきた。

 パリからモスクワに向かう機内で、偶然、仏シトロエンの役員と一緒になった。モスクワで開催される自動車ショーに新型モデルを発表するらしい。腕にはスイスの高級時計「ジャガー・ルクルト」の新作が光る。給料が高いのか、家柄がよいのか。着ているスーツも英国製で、裏生地のラベルがちらりと見える。

ロシアと蜜月を築こうというフランス

 しかし、興味深い話を聞き出すことができた。フランス政府は、アメリカ一極集中経済の終焉を予見して、BRICsへのシフトを始めているという。具体的にはロシアと中国とブラジルをパートナーとする国家戦略が組まれているとのことだ。シャルル・ド・ゴール空港の新ターミナルもロシアからの乗客をターゲットにして作られたのだという。

 フランスは政策などにおいて電気自動車へのこだわりが見える。そこで電気自動車に話を振ると、案の定、シトロエンの役員はのってきた。電源に占める原発比率が世界でもっとも高いフランスは、ウランをポスト化石燃料と位置づけている。その意味ではウラン資源を持つロシアやウクライナは、フランスにとって、アメリカにおける中東と同等の意味を持つ国となる。

 アメリカがサウジアラビアやクウェートと蜜月関係を作ってきたように、フランスはロシアとの協調関係を重視する国家戦略を持っているという。ロシアにとってもフランスは相性がよい。ナポレオンのロシア遠征という歴史はあったものの欧州史において、両国の間には、後世まで引きずるような争いは少なかったのだから。

 興味深い話に聞き入っているうちにモスクワ・シェレメチェヴォ空港に着いた。シトロエンの役員と私は護衛にガードされながら、別室に連れて行かれた。モスクワ空港にはVIPのための専用イミグレーションがあるのだ。お金やコネが優先される風習は昔から変わらないのかもしれない。私の場合、現地の三菱自動車を取材する予定があったため、現地のスタッフが気を利かせてくれたのである。

 初めて足を踏み入れたモスクワ──スパイ映画でしか知らない旧社会主義の国に思いを馳せるとき、暗くて寒くて自由がなくて、貧しさに押し潰されそうな人々があふれ、犯罪者はシベリアに送られ二度と故郷の地を踏めない――などと陰湿なイメージをもってしまうかもしれないが、実際のロシアは、笑いが止まらないくらい自動車が売れているのだ。

ロシア自動車市場とSUV

 モスクワ自動車ショーは、ほかの国際ショーと違って、オフロードも走れる大きなSUV(スポーツ多目的車)が主流だった。通貨ルーブルの高騰も影響し、ロシアでは日本製高級SUVが売れていると日本でも報じられていたが、日本製に限らず、どのメーカーも高級SUVを中心に展示していた。SUVはドル箱なのである。そのほか、アメリカの自動車文化の影響をうけてか派手なアルミホールをまとったチューニングカーも人気が高い。

 ところで、モスクワ自動車ショーは、会場にもなった「クロッカス・エキスポ・インターナショナル・エキシビジョン・センター」と「国際自動車工業連合会(Organisation Internationale des Constructeurs d'Automobiles/OICA)」が主催し、クロッカス・エキスポが運営もしていたが、バックで支援しているのが「アソシエーション・オブ・ヨーロピアン・ビジネス・イン・ロシア」という団体(Association of European Businesses in the Russian Federation)だった。こんなところにも、ロシア自動車市場にチャンスを見出そうとしている欧州産業界のアクティビティが垣間見える。

 ショーではSUVが目立ったが、実際にモスクワ市民の足として人気があるのは比較的コンパクトなセダンだ。たしかに今後を考えると、広大な大地を持つロシアで、アメリカやオーストラリアと同じように大きなSUVの人気が高まっていくのは理解できる。それでも、渋滞や排ガスが激しいモスクワ市の現実を知れば、ロシアでも都市ではコンパクトカーや電気自動車のほうが適しているといえる。

 モスクワ自動車ショーも、今後はそうしたクルマもアピールする場として発展することが重要だと思えた。

人気ある日本車

 ロシアの自動車市場は、2008年で年間350万台くらいの規模にまで急成長を遂げている。そのうち、約70%を海外メーカーが占める。これに対して、アフトワズなどのロシアメーカーは年々販売台数を落としている。世界の自動車メーカーはロシアを成長市場と見込み、西からはドイツやフランスが、東からは日本や韓国、あるいは中国メーカーがロシアに食い込もうとしている。

 だが、ロシア政府は、中国のように産業政策として自動車産業を育成する考えは乏しいようだ。自動車を作るよりも、石油や天然ガス、ウランなどのエ ネルギー資源に集中したほうが有利だと考えている節がある。2度にわたる通貨危機を経験し、民族紛争など頭の痛い問題が山積しているロシアとしては、手っ取り早く"強いロシア"を演出しないと国内をまとめきれない。自動車産業を地道に育てるよりも、自動車などが使うエネルギーの供給国として影響力を強める戦略に傾いているのかもしれない。

 ここで、2008年度にロシアで売れた海外ブランドの上位を見てみよう。

 上位4社の数字にはロシアで生産している台数も含まれている。今後は日産自動車や三菱自動車も現地生産を計画している。三菱自動車は仏PSA(プジョー・シトロエングループ)と共同でモスクワ郊外に工場を建設し、三菱自動車のSUV「アウトランダー」および車台が共通の「プジョー4007」、「シ トロエンCクロッサー」を生産する予定だ。

 ロシア人から見たとき、プレミアムカーとして映っているのは日本車とドイツ車である。その意味でもPSAにとって、三菱自動車は重要なパートナーなのである。実際、ルノーは日産がパートナーなのでロシアでも人気がある。

 モスクワで三菱自動車のディーラーを取材した。驚いたことに3分の2のユーザーが現金でクルマを買っている。そのためか、店内にキャッシュディス ペンサーも設置されている。モスクワでもっとも元気のある三菱のディーラーの場合、年間6000台も販売するという。ロシアで売れている海外ブランド車種別ランキングで、「三菱ランサー」は第4位の人気車種だ。売り上げ上位は、比較的低価格のBセグメントが主だという。

見えない環境戦略

 モスクワの昼の顔は80年代の東京に似ている。道路には自動車があふれ、モスクワの環状道路は慢性的な大渋滞だ。頻繁に起きる交通事故もモスクワ名物となっている。自動車が急速に増えたので、大気汚染も深刻化している。日本の失敗を繰り返しているようだ。

 ところで、モスクワでハイブリッド車などのエコカーは走っているのだろうか? 現実はほとんどがガソリン車だ。ディーゼルも価格が高いうえ、ロシアの軽油はサルファ(硫黄分)の含有量が日本の100倍もあるということで高性能なインジェクターが使いにくい。同じ理由でガソリンエンジンも、直噴などのモダンなテクノロジーは使われていない。モスクワの排ガス規制は欧州基準で「ユーロ3」レベルだから一歩遅れている。それも新車のみが対象のようで、古い自動車はまったく規制されていない。

 燃費が気になるところだが、ロシアはガソリンが非常に安い。通貨ルーブルの為替次第という面もあるが、ガソリンが安いといわれるアメリカよりもさらに30%ほど安い。産油国ロシアはサウジアラビアやクウェートと同じように、ガソリンは水よりも安いのである。

 モスクワの人口は公式には1000万人と言われるが、不法滞在を加えると2000万人になるという説もある。平均所得は円換算で250万円。まだ、自動車を購入できる層は限られている。おびただしい数の日本車の中古車がロシアに入ってきているが、それらは主にウラル山脈の東側、いわゆるシベリア地方で走っており、モスクワではあまり見かけない。

 昼は一生懸命に働く良きモスクワ市民の姿がモスクワの顔だが、夜の帳(とばり)が下りるころには打って変わったように神秘的な顔つきになる。建物の外は質素だが、どの店も秘密クラブのように謎めいた雰囲気がある。モスクワでもっとも高級車が出没すると言われるバーに潜入してみた。

 バーで聞いた話では、モスクワの男性の平均寿命は58歳だという。理由はウオッカの飲み過ぎだと、相手は自嘲していたが、それにしても短い。また、ロシアは自殺率が高い。世界のなかでは昨今の日本もかなり高い方だが、もっと高い。一方で「おさかん度(セックスの回数)」は、ギリシャに次いで多いという。私にはこれらの関係がすごくアンバランスに思えた。

 ロシアでも移動手段として自動車がさらに普及するのは間違いないが、石油があまりにも安いため環境意識が薄いというのがロシアの実態であった。ロシア政府も中国のように自動車産業についての明確なビジョンを持つべきなのだが、たしかに寒い地域が多いので電気自動車や燃料電池車の開発促進などは難しそうだ。一方で、ロシアに豊富なエネルギー資源を燃料に使う天然ガス自動車などは非常に有効かもしれないのだが...。

 ロシアは産油国であるがゆえ、環境政策も重要だと考えるが、いまのところ国家指導者たちは自動車にも環境にもあまり関心は高いように見えない。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100729-00000003-trendy-ind

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